歯医者に抜歯されないために

歯医者から歯を守る方法

 前回の記事で書いた通り、現状の歯科医療は歯を残して治療するようにシステムされていません。

  • 患者さんが高い成功率の治療を要求するが、状態の悪い歯の治療の成功率は低い。治療してトラブルになるくらいなら、初めから治療しないで抜歯したほうがクレームにならない。
  • 歯を残す治療は一定の確率で失敗するが、抜歯は確実で予測可能な治療
  • 歯を残す治療の保険点数が異常なほど低い

以上の理由から、がんばって歯を残すように治療することが評価されないため、抜歯を優先することになるのです。では歯医者さんに抜歯されないための具体的な方法を説明します。

 

抜きたくないことをはっきりと言う

 医療は全般的に医療従事者から患者さんへの一方通行です。

「根が割れていて膿んでいるので、抜歯しますね」

「歯周病でグラグラだから、これから抜きましょう」

など、抜きたいかどうかの選択肢がない場合が多いです。特に人口の少ない地域の歯科医院ではこの傾向が顕著です。抜歯の説明の前に麻酔をかけられ、直前に寝ている状態で「これから抜くので、痛かったら手を挙げてください」という状況にもなりかねません。

 

 とにかく抜かれる前に、抜歯したくないことをはっきりと伝えてください。一般歯科は忙しいので、あなたの気持ちを汲み取る余裕はありません。分かってくれるはず、などと淡い期待をしてはいけません。抜歯したくないことをはっきりと伝えてください。

 

 歯医者さんの中には、患者さんが意見することを嫌がる先生がいます。

「何も分かっていない素人が口をだすな。黙って従え」

といった考え方の先生は、あなたが意見をした後に態度が変わるはずです。もし態度が変わったなら、その歯科医院に通院するのは避けたほうが良いです。あなたの希望にそった治療ではなく「歯医者がやりたい治療」しか受けることができません。

 

残せる方法を教えてもらう

 勉強している先生の場合、歯根破折や根尖病変などの抜歯適応の状態であっても保存する方法を知っているはずです。やんわりと「もし抜歯しないで残す場合、どのような治療方法があるか教えてください」といった感じで聞いてみると、代替治療の提案があるかもしれません。場合によっては治療できる先生を紹介してもらえるかもしれません。

 

「今すぐ抜かないと大変なことになる」

「早く抜歯しないと顎の骨が溶けて大変なことになる」

などのように、抜歯の説得になった場合は注意しなければなりません。インプラントや自費の入れ歯の契約につなげたい恐れがあります。

 

抜歯適応の歯を治療してもらう

 最も難易度が高いですが、無理ではないです。私の知り合いにプロ患者がいます。私が勝手にプロ患者と命名しているのですが、彼女は歯医者だけではなく、あらゆる診療科で希望を通しています。彼女が診察室に入ると、だいたい長くなるそうです。先生がどんどん自分のことを話すそうです。先生から悩みを打ち明けられることも多いそうで「もう疲れちゃってさー、そろそろ閉院しようかと考えていてね」と打ち明けられたときにはスタッフたちがびっくりしていたそうです。最も印象的だったのは、医科の学会で敵対関係にあった先生たちを復縁させ、チーム医療で難症例を突破したことです。これだけ聞くと、相当な交渉力を持つ人物のように思えますが、彼女はとても穏やかで控えめです。

 

 ではなぜ彼女は自分の希望を実現できているのかというと、先生やスタッフを安心させているからです。彼女からは一切の敵意を感じません。なんでも話していいような雰囲気を一瞬で作ります。だから「困っているあなたのためにがんばろう」という空気が形成されるのでしょう。

 

 「抜歯しないで残してあげよう」という空気を形成する第一は「患者さんが医療従事者を安心させる」ことです。逆だと思うかもしれませんが、多くの歯科医院は多忙であり、患者さんひとりひとりに気遣いできる余裕がありません。その殺伐とした空気を変えることができるのは患者さんです。

 

 「抜歯させないぞ!失敗は許さない!」というふうに、斜に構えると相手に伝わり、相手も反射的に構えます。私たちは患者さんからのクレームにとても敏感です。患者さんからの苦情やクレームは歯科医師だけでなく、スタッフや関係機関の多大なストレスがかかります。場合によってはスタッフの離職や職場環境の崩壊につながります。誰でも人間関係のトラブルは避けたいですよね。あなたが構えると、相手も構えます。逆もそうで、あなたがリラックスしていれば、あくびが伝搬するように、相手もリラックスします。気持ちが落ち着けば、相手の声に耳を傾ける余裕が生まれます

 

 患者さんが医療従事者を安心させることで、提供できる医療の可能性が増えるのです。人は困っている人を反射的に助けたいと思います。特に医療従事者にはこの傾向が強いです。医療施設は基本的に居心地が良くないので、簡単にできることではないのですが、やってみる価値はあると思います。相手を変えることはできませんが、自分自身を変えることは可能です。まずはあなたが落ち着いてリラックスすることを意識してみてください。

 

 私のように凡人の歯医者でも、無理してがんばれば意外と末期の歯でも残せます。だから多くの先生ができなくはないはずです。通院先で難しいのなら、近所の歯科を最低でも3軒は行ってみることをお勧めします。