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過剰治療を回避できた症例

 近所の歯科にて「右上奥歯をすべて抜歯してインプラントにしなければならない」と説明を受けた患者さんです。200万円を超える見積もりを提示され、ご家族も非常に困惑されていました。すべての歯の保存に成功し、費用も1/10程度に抑えることができた3年経過の症例です。


 近所の歯科にて「右上奥歯をすべて抜歯してインプラントにしなければならない」と説明を受けた患者さんです。15は歯冠崩壊が進んでおり、保存治療が困難なことが想定されます。さらに18智歯埋伏を認め17に近接しています。

患者さんから経緯をお伺いすると

 

1.取れた歯はダメだから抜歯

2.親知らずと手前の歯もダメだから抜歯

3.抜歯した後、骨がなくなるからインプラントが打てないので、手前の歯を抜歯してインプラントを入れたほうがいい

4.インプラントを2本入れてブリッジにする

 

といった説明を受けて、費用が200万円をオーバーしておりました。4本抜歯、骨補填、移植骨の採取手術・・・大変そうです。

 


 診断としては間違っていないと思いますが・・・。

残念ながらインプラント以外は見えていない先生なのでしょう。成功率という数字にも囚われているように思えます。インプラントを入れることしか考えていない為、平気で残せる天然歯を邪魔者扱いします。

「骨が溶ける前に早くしないと!」

「成功率を上げるためには弊害になる天然歯は抜歯したほうがいい」

患者さんの為のセリフのようですが、一方的な自己都合の押し付けにすぎません。

 


15について、歯根長が短いため歯冠・歯根比に懸念があります。さらにフェルールが喪失しており、クラウンの維持に不安が残ります。

しかし骨植良好であり症状がありません。なによりも、患者さん本人は成功率に関係なく、歯を残すことを強く希望されていました。

根管治療、ファイバーポストにて支台築造し、セラミッククラウンにて補綴しました。

歯冠・歯根比が不利なことや、フェルールの喪失は抜歯の判断基準のひとつにすぎません。

本人が保存を強く希望する以上、患者さんの想いが優先されます。

 


16のFMC除去後の写真です。想定以上にう蝕が進行していましたが、十分な歯冠歯質が残存しております。前医が必要な根管治療をせずに補綴していた影響もありそうです。

 


根管充填後のデンタルです。ややオーバー気味ですが、問題なく根管治療を進めることができました。

 

 医療者のバイアスは完全に除外できません。今回のようにインプラントにバイアスされていたり、私のように天然歯の保存にバイアスされていたり。多くの先生が自分の得意分野にバイアスされています。癖とか傾向とかです。それゆえ、患者さんは複数の医療機関で話を聞いたほうがいいと考えています。手間はかかりますが、今回のケースのようにガラッと診断から治療まで変わってしまうこともあります。診断に疑問が残る場合「最低でも3軒の歯医者を回ったほうがいい」と説明しています。


ファイバーコアにて支台築造後、セラミッククラウンにて補綴しました。

 


3年経過後の写真です。まったく痛みも違和感もなく、意識していないそうです。

ご家族の方とともに片道2時間の距離を通院していただきました。

私の治療は1回の治療時間が長いので、1日がかりでの通院は大変だったと思います。

ご家族の方が運転して、患者さん本人の治療に積極的に寄り添ってくれたことも、成功できた要因でしょう。

本当に身の引き締まる思いです。

 

 

 

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池田 清彦 著  病院に行かない生き方 (PHP新書)

 

 

病気の自覚のない人まで「病人」に仕立て上げ、「このまま、ほうっておくと大変なことになりますよ」という未来の仮定を脅し文句にして、無駄な治療を受けさせようとする。

 

健康か病気かの絶対的な基準なんてものは実は存在しない。その方面の権威とされる団体(学会など) が「この辺から先は病気ってことにしよう」と 恣意的に決めたものを「基準」ということにしているだけ

 

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・注意事項

症例写真は患者様の了解を得たうえで掲載しております。

無断複写・転載は一切認めておりません。