ダイレクトクラウンの治療方法

ダイレクトクラウンは口腔内で直接クラウンを作成する治療方法です。模型上でクラウンを制作しないため、健康な歯を無駄にすることなく、適合性の高い被せ物を短期間で装着することができる画期的な方法です。

 


金属が取れたことを主訴に来院されました。疼痛などの自覚症状は認められませんでした。

 


 軟化象牙質除去後の写真です。咬頭が大きく欠損しているため、通常なら金属やセラミックなどの間接修復です。クリアランスや保持形態のためだけに健全な歯質を大きく削ります。健康な部分を傷害するため、術後に疼痛や知覚過敏が発現してしまうのです。

 普通の補綴治療はクラウンを作るためだけの理由で、相当量の健全歯を切削していました。直接補綴はクリアランスやアンダーカットが全く問題になりません。感染部分のみの除去で済ませることができます。

 


 セレクティブエッチングです。ノンカットエナメルを37%リン酸エッチングで10秒ほど処理します。エッチングは塗布して即時に活性を失い始めるため、やや多めに塗布することをお勧めします。多く塗布するデメリットよりも、脱灰されないデメリットのほうが多いと考えています。

 セレクティブエッチングは象牙質の過脱灰を防ぐことができる上に、象牙細管の開口を防止できます。つまり細管浸出液や有機物による接着阻害を防ぎつつ、エナメルの接着を最大限活用できるわけです。エッチングはいろいろ使ってペントロン製に落ち着いています。

 


 ワンステップボンディングのGプレミオボンドを塗布してしっかり照射します。象牙質の処理はボンディングのマイルドなエッチングで十分です。反応された部分=ボンディング含浸相となるため、デッドスペースが発生せずコンタミを防止できます。細管内の汚染物質はエッチングで溶解させるとともにボンディング内部に埋葬させます。ちなみに、Gプレミオボンドは水が多量に含まれているので、十分にエアブローしてください。接着強度がかなり出るのはウェットボンディングに近いからなのかな。

 


 賦形前に象牙質を裏層します。可及的速やかに象牙質を封鎖しましょう。時間が経てば経つほど接着阻害要因が増え、結果として疼痛や視覚過敏に波及します。

 CR後疼痛の原因の大半は封鎖不全です。接着界面に唾液が介在しているパターンが多いのでは、と考えています。ラバーダムは重要です。

 


 補綴完了です。1時間前後の時間で処置しました。もう少し研磨を進めたかったのですが、顎がつらいとのことで、セルフシャイニングに期待することにしました。ジーシー社のCRはほっといても研磨されるので安心感が違います。

 


 半年の経過観察です。問題ないとのことで良かったです。

 仮に大きく破折した場合は、破損部の修復で対応可能です。それでも難しい場合は通常のクラウンに変更することも可能な可逆性を備えております。この可逆性があるからこそ、困難な状態の歯にも積極的にチャレンジできます。

 

・注意事項

症例写真は患者様の了解を得たうえで掲載しております。

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