アンレーを直接CR充填にて短時間で仕上げる

 私はクラウンであったとしても、ブリッジであったとしても、基本的に直接修復で完結させます。今回は咬頭が喪失しているケース、つまりアンレーをCRにて仕上げていく方法を解説します。

 


 物が詰まって気になっていたそうです。16の治療について、もう何十年も前で覚えていないそうです。

 あくまで推測ですが、16をインレーにて修復し、それほど経過していない時点で遠心口蓋咬頭が破折したと思われます。短期間での修復のやり直しは保険が適応されないことが多いため、メタルによる再製作をケチってCR充填にて破折部分を修復したと考えました。率直に言うと、かなり乱暴な治療です。おそらく適切な接着操作を行っていない可能性が高いです。

 

 しかし、CR充填部分はマージンラインに2次カリエスの兆候がありません。そして咬頭部分のCRが破折や脱離せず、きれいにそのまま残っているのです!物理強度を超えているはずなのに、ラバーダムを使用した厳密な接着操作を行っていないのに、きれいに残っています。こういうケースを見ると「CR充填ってすごい!」と感心します。

 CR充填は理論上の限界を超えて機能できるポテンシャルがあります。たぶん解明されていない理由があるのでしょう。医学では「よくわかんないけど効果あり」なことが普通にあります。麻酔ですら、なんで効くのか完全解明されていませんが普通に使います。私が日常的にCR充填の限界を超えて使用している理由はここにあります。


 軟化象牙質除去、窩洞形成後の写真です。CR充填部分のみ軟化象牙質がほとんど形成されていませんでした。ところがメタルインレーが装着されていた部分は広範囲に軟化象牙質が認められていました。

 

 本ケースのように歯冠修復を完了させたあとのトラブルに対して、CR充填で間に合わせているケースに遭遇することが多々あります。ですが、ほとんどのケースでトラブルになっていません。こういった「やってはいけないが、臨床家なら必ず直面している問題」って学会やケープレで発表されることは皆無です。学術上は「存在しない」治療が臨床的に有意義なのです。

 

 上澄みだけを見ていても、本質が見えることはありません。臨床は泥臭い作業の連続です。教科書のように理想的でクリーンではないのです。この泥臭さからダイレクトブリッジやレジンビルドアップ、モノブロックレストレーションが生まれました。リバースイノベーションです!

ダイレクトブリッジなどは一見すると新しい治療方法っぽいのですが、私の父に言わせると

「そんなの普通だよ。前歯が1本だけ抜けちゃって、若い女性とかで、とりあえずCRで歯を作ってやってさー。それが何年ももつんだよ。こんなかんじでさー。開業した時から普通にやってる。」

とダイレクトブリッジについて話していました。

 昔の偉い先生が決めた基準が絶対に正しい保証はありません。アンテの法則や歯冠歯根比、CR充填の適応症など、昔のルールを見直す時が来ているのではないでしょうか。


 充填時に賦形をこだわると、どれだけ時間があっても足りません。そして充填に時間をかければかけるほど、異物混入や接着阻害の要因を増やしてしまいます。なによりも患者さんが大変です。開けっ放しの時間は短い方が楽です。

 まず短期間で素早く充填を終わらせます。ここでは賦形にこだわりません。ややオーバー気味に充填するのがポイントです。あとで追加するのは非常に大変です。そして、各種バーやポイント類で小窩裂溝や辺縁隆線を造形していきます。私がカービング法と勝手に命名しているテクニックです。

 


 この方法を使用することで、今まで2時間近くかかっていたケースでも、1時間以内に終わらせることができます。しかも賦形と咬合調整をセットで進められるので、より機能的な形態付与が可能です。


 4か月後の経過観察です。問題なく、とても喜んでおられました。ちなみに17はダイレクトクラウンです。クラウンも直接成型しています。

 

・注意事項

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