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口腔外再植接着治療の失敗を考える

他医院で根管内を接着性レジンセメントとファイバーポストで埋められている状態で来院されました。そのため根管内からアプローチできず、やむなくいったん抜歯して歯根端切除術と破折線の接着を行う口腔外再植接着治療を適応した症例です。

 


 他医院で歯根破折の接着治療を受けたが、歯肉の腫れと痛みが治まらず、当医院を受診されました。右下5番はすでに根尖付近までファイバーポストを併用した根管内接着治療が施されている状態でした。1年以上も根管治療に時間がかかった、と本人からお話がありました。

 右下5番は頬側根面に破折線を目視することができました。頬側中央部のポケットは5mmでしたが、アタッチメントロスが大きいため、根尖付近まで歯槽骨の喪失が起きていることが予想されます。さらに付着歯肉も1mm以下であり、清掃性の観点からも相当厳しい状態です。歯根破折していなかったとしても、抜歯対象と言えるでしょう。

 それに加えて、他の歯科で根管治療に1年以上の期間を使っているようです。根管治療は再感染のリスクと咬合への影響を勘案して、2カ月以内に終了させるべきです。保険診療においても、同様の規定があります。

 当該歯に動揺がなく、頬側以外のポケットは2mm程度で良好です。そして本人の保存への強い意志がありました。泣き崩れる様相であったため、一か八かで保存にチャレンジしました。

 


 完全歯根破折です。しかも歯根周囲の感染が進んでおり、破折してからの期間が長すぎるのが分かります。加えて根管内を何で接着したのかが分かりません。しかも破折部が若干動くことから、根管内で接着できていない状況でした。通常の口腔外再植接着治療ではバイオセラミック系の材料かMTAを使用するのですが、どちらも接着力がないため破折部の広がりに対処できません。そこで往年の方法を採用しました。破折部とを削合し、歯根端切除を行い、スーパーボンドで歯根外周から固めてしまいました。

 


 約3週間後の経過観察です。スーパーボンドはエックス線造影性がないので透過像として写ります。一見すると失敗しているように見えますが、歯肉の炎症は落ち着きつつあり、自覚症状の消失を認めました。この時点では、ひとまず上手くいったようです。 そこで4番と接着させたダイレクトクラウンにて歯冠修復しました。

 

 本症例について、本当は治療したくなかったです。他医院での治療を撤去できず、非常に厳しい状態であることから、失敗するリスクが圧倒的に高いためです。ですが施術に踏み切れたのは患者さんの意思と人柄だと思います。口腔外再植接着治療にスーパーボンドを使用したため、歯肉にベラークという口内炎のような潰瘍が形成されてしまい、かなり痛みが強かったと思います。それにも我慢していただき、治療計画にも積極的に参加されて一緒に考えました。

 高圧的な方や治療に参加しない「先生にお任せします」の態度でしたら、間違いなく断っています。治療の成功は医療者の技術や知識も必要ですが、患者さんの思いや治療への協力が不可欠です。

 


 約1年経過時の写真です。頬側の付着歯肉が若干回復しております。新付着のような状態になっておりますが、歯槽骨は回復しておりません。デンタル上においても、可もなく不可もなくといったところです。少なくとも透過像はスーパーボンドの範囲でとどまっています。ただし、施術後4カ月時点で歯茎の痛みを訴えられ、ミノサイクリン塗布と清掃指導を行っております。その後、たまに少しだけ痛むようですが、生活に支障がなく、術前よりも快適になったとのことで、2カ月に1度のペースで慎重に経過観察をしております。

 たまに少し痛い後遺症のような症状が残存していることから、本症例は失敗と考える方もいるはずです。特に神経質な方や認知に問題のある方だったら、痛みが出た時点でトラブルになっていた可能性が高いです。口腔外再植接着治療は条件が良くても、古傷が痛むような症状がたまに発現する方が体感的に多いです。そういった意味では、患者さんのパーソナリティも適応条件の一つと言えるでしょう。

 本症例の患者さんには執筆時点において通院中です。長期間にわたりご協力いただけていることに感謝しかありません。

 

・注意事項

症例写真は患者様の了解を得たうえで掲載しております。

無断複写・転載は一切認めておりません。