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誤診による抜歯・インプラントを回避できた症例

 CT検査で根尖病巣が見つかり、90万円で抜歯してインプラントをするか、30万円で精密根管治療をしなければならないと説得された患者さんです。当医院の基本治療により、無症状で半年以上経過している症例です。

 


 ずっと通院している歯科でCT撮影をしたところ、根の先に膿がたまっているため、抜歯してインプラントをするか、院内の専門医による自費の根管治療をするか迫られたそうです。「インプラントは1本90万円かかる。根の治療は保険だと無理だから30万円。たぶん割れているから抜歯してインプラントがいい。」と、いきなり言われたそうです。ほかの歯の治療の際にも事前の十分な説明がなく、いきなり「次は10万円持ってきてください。」などと言われ不信感が強くなってしまい、今回の件で転院を決めたそうです。

患者さんは笑顔を見せてくれていましたが、痛みや腫れもないため困惑した様子でした。

 


 本人の希望によりクラウンとメタルコアを撤去して根管治療を開始しました。2次カリエスを認めましたが、歯肉縁上に1mm以上の十分な健全歯質が残存し、加えて歯根破折などの抜歯を適応する所見を認めませんでした。

 デンタル上にて近心頬側根の根尖部に透過像を認めましたが、私の判断では根管治療可能であり、十分に保存できる見込みがあると判断しました。口腔内に自由診療の修復物が多数あることから、儲かるインプラントへの誘惑があったのかもしれません。

 

 いずれにしろ根管内を十分精査せず、アーチファクトの多いCTだけで抜歯の診断を下したことは適切とは言い難いです。

確かにインプラントは確実で儲かります。

ですが、まずは歯を治療して残すことを第一に考えるべきではないでしょうか。

 

知恵を絞り、手を尽くし、それでもダメな時の最後の最後に抜歯を考えるべきです。

私たちは歯医者です。歯を治す、歯を助けることが使命であるはずです。


 根管の湾曲が想定よりも強く、手間取ってしまいましたが、ニッケルチタンファイルを使用することで湾曲根管に追従した解剖学的な根管形成を目指しました。まずは通法の根管治療で経過観察を行います。術後に腫脹や疼痛などの炎症反応の発現を認めた場合に外科的歯内療法に移行します。

 根尖部に透過像を認める場合でも、ラバーダムをして通法通りの根管治療で治癒する場合が多いです。

少なくとも「根尖部透過像=抜歯」ではありません。

 


 インジェクションモールド法を用いて、即日で歯冠修復を行いました。モールドの適合が甘く、歯肉にインジェクタブルCRが漏出してしまいました。エアブローにより飛散したボンディングが歯肉に付着したことでバリ除去をいっそう困難にさせていました。

 

現在のボンディングは以下の理由でエアブローが必要です。

・エタノールやアセトンなどの溶媒を揮発させる

・被膜厚さを一定にする

・未塗布部位へボンディングを広げる

・pH調整として含有されている水分の除去

などです。

製品によってエアブローのタイミング(待機時間)、ブローの強さが異なります。こういった点も煩雑性を感じ、テクニカルエラーにつながる恐れがあります。エアブローなしで歯面処理できるボンディングがあれば、インジェクションモールドのバリ除去が飛躍的に簡便になるのに・・・と歯がゆい思いをしております。


別の処置で来院された際に撮影した1か月後の経過です。痛みや腫れもなく、違和感も出ていないとのことで安心しました。


 半年以上経過した写真です。術前から一度も痛みなどの自覚症状がなく、意識することなく快適に生活できているそうです。

 

 本症例のように、再植などの特殊なテクニックを使わず、基本治療で治癒するケースであっても抜歯判定をする歯科医師が多いことに愕然とします。

 

歯を助ける存在であるはずの歯医者が、もっとも歯をぞんざいに扱っている現実に悲しくなります。

 

様々な考え方がありますが、私はインプラントよりも天然歯で生活したい。

もし自分や家族が同じ状態になったら、無理してでも保存して、1年でも2年でも自分の歯で生活したいと考えます。だから患者さんの歯にも同じ思いで治療します。

 

・注意事項

症例写真は患者様の了解を得たうえで掲載しております。

無断複写・転載は一切認めておりません。