健全歯をなるべく削らずに、精密根管治療で抜歯を回避した症例です。

近隣歯科で歯が割れているため抜歯と言われたそうです。頬側歯肉が著しく腫脹しており、波動を触れる状態でした。頬側中央部のポケットが10mmを超えており、歯内歯周病変を疑う状態でした。デンタルレントゲン上にて、根分岐部から根尖部に及ぶ、広範囲に歯槽骨透過像を確認しました。根管治療を受けておらず、十分な健全歯質を確保できることから、保存できる見込みが高いと判断しました。

歯内歯周病変を疑う場合、まずは歯髄の診査が必要です。多くの歯科医院では基本治療としてスケーリングなどの歯周治療を先行します。保険診療での制約があるため仕方がないのですが、感染根管を放置して歯周治療を優先すると、病状を悪化させる危険性が高いです。
明らかな二次カリエスを認めたため、不良充填物の除去を行いつつ、切削診にて歯髄の活動を診査しました。十分な歯質が残っている場合や修復物の残存があると、パルプテストが不明確になることが多く時間の無駄です。かかりつけ医ではないため、全顎の口腔管理をしておりません。そのため歯周検査も必要な部分だけで済ませます。
マニュアル通りに検査から進めることは簡単です。しかし、無駄な検査をすることで、時間と費用が余計にかかります。最悪の場合、検査のよって処置が遅れ、病状を悪化させます。
「目の前の患者さんに必要な検査は何か?」
を少しでも考えることで、救える歯があると思います。
ラバーダム防湿下にて充填物を除去したところ、多量の軟化象牙質と出血を伴わない髄角部の髄腔露出を認めました。切削痛もなく、想定通り感染根管の状態でした。


近心頬側根管がMB1とMB2がつながったような形状をしていました。髄床底にもう蝕が進んでおり、ストリップパーフォレーションに近い状態でした。来院がこれ以上遅れなくてよかった。
根管が強く湾曲していたため、難易度の高い歯内療法でしたが、スムーズに処置できました。普段から厳しい状態の再根管治療を進めているため、未処置の根管治療は正直なところ楽です。


歯内療法後に咬頭を残した状態で修復すると、歯冠歯根破折の危険性が高いため、必要な部分のみ切削しております。通常のクラウンでは、歯冠部のエナメル質の大部分が失われることになります。


オーバーレイにて修復しました。ほとんど削っていません。さらに当日1日で施術可能であるため、通院回数も減少させることが可能です。


半年後の経過観察です。痛みや違和感なく生活できている、とのことで安心しました。デンタルレントゲン上において歯槽骨の回復が確認できました!
最小限の検査で迅速に診断し、基本治療を無視してオペレーションを進めたことが功を奏したと考えています。検査や歯周基本治療で処置が遅れたら、抜歯になっていたかもしれません。
本症例の患者さんは歯科医院を3軒回って、4軒目で当医院に行きついたそうです。多くの方が3~4軒回ってワタベデンタルに終着します。あきらめたら、そこで試合終了です。
・注意事項
症例写真は患者様の了解を得たうえで掲載しております。
無断複写・転載は一切認めておりません。