感染根管治療で症状が改善されず、意図的再植術と歯根端切除術を併用して症状の改善を図った症例。

左上7番の腫れと噛んだ時の痛みを主訴に来院された患者さんです。頬側歯肉に波動を蝕知し、排膿の痕跡を認めませんでした。安易に切開による減圧を試みようとすると、播種による蜂窩織炎を引き起こす恐れがあります。そのため、急性期には根管内からの減圧・排膿を第一選択としています。
メタルアンレーを撤去した後の写真です。著しい二次う蝕の進行を認めます。歯髄に生活反応が無く、感染根管の状態でした。前職での治療のため、デンタルレントゲンを掲載できず申し訳ございません。


根管治療によって症状が一時的に改善しました。しかし1カ月程度で腫脹の再発を認めたため、意図的再植術の適応に踏み切りました。通常なら抜歯・インプラントの案件でしょう。根管治療すら断る先生もいると思います。
幸いにも歯根間の離開が少なく、容易に抜歯することができました。意図的再植術を適応する場合、一般的には鉗子によるジグリングで抜歯を試みます。前職での院長のアドバイスで「脱臼させて抜歯しないと時間がかかるし、挫滅させますからね。時間がかかると失敗するから、くれぐれも気をつけるように。」とアドバイスを頂いています。臨床経験50年の口腔外科医のアドバイスは臨床に即しており、文献の一般論とは違います。ヘーベルで歯根膜を断裂させるように脱臼させて、鉗子で素早く抜歯しています。
根尖は崩壊しており、多量の嚢胞様組織を摘出しました。歯根端切除と逆根管充填を施し再植しました。根尖の崩壊が著しかったため、単純な逆根管充填というよりも根尖を成形するような充填になりました。

意図的再植術の2週間経過時の写真です。症状なく無事に収まりました。

術後3週目にダイレクトクラウンにて歯冠修復しました。咬合圧をかけて歯根膜に刺激を与えないと、廃用を起こし退縮して失敗します。幸いにも、本症例の患者さんは痛みも腫れも動揺もなく、非常に良好な経過でした。多くの方は意図的再植術の3週目では若干の打診痛と動揺と歯肉の炎症を認めます。咬合圧をかけることをためらう状態なのですが、心を鬼にしてローディングします。この治療の後、ほぼ必ず痛みが出ますので、十分な説明をしないとトラブルになります。この時は現在使用しているインジェクタブルCRではないため、コンタクト部分に成形しやすいCRを使い、咬合面には圧縮強さに優れたCRを使い分けています。


定期健診を希望され来院されました。4年目に入りましたが、良好に経過しており、一安心です。本人は根管治療後の再発で抜歯を覚悟していたそうですが、全く症状なく使えていることに大変喜ばれておりました。
手前の6番の歯根に破折線を認めたため、再処置を検討しております。自覚症状がなく、加えて厳しい状態であり、処置によって保存不可能となる可能性があるため、非常に悩ましいです。
こういう時にインプラントは楽です。なんでもかんでも抜歯して、まっさらにしてインプラントをドリルするのですから。抜歯してマニュアルに従いドリルすればいいだけです。
一方、状態の悪い歯を残すとなると、一気に難易度が上がります。不確実性の連続で、だいたい計画通りに進みません。事前の説明と違うことを施術して、事後説明することもあるくらいです。網の目のようなオプションを瞬時に切り替えていく、柔軟性と対応力が求められます。楽譜通りに演奏しない、その場の空気に合わせて演奏するジャズのようなイメージです。困難を伴うのですが、そこにやりがいを感じております。
・注意事項
症例写真は患者様の了解を得たうえで掲載しております。
無断複写・転載は一切認めておりません。